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東京高等裁判所 昭和53年(ラ)1375号 決定

抗告人

株式会社堀内商会

右代表者

清水誠三

右代理人

川崎友夫

外四名

相手方

三共電機株式会社

右代表者清算人

鈴木四郎

主文

原決定を取り消す。

相手方の執行方法に関する異議の申立を却下する。

本件手続費用は、原審および当審を通じて、相手方の負担とする。

理由

抗告代理人は、主文同旨の裁判を求めたが、その抗告の理由は末尾添付の別紙のとおりである。

当裁判所の判断

一一件記録および取寄にかかる新潟地方裁判所三条支部昭和五三年(ル)第三一号同年(ヲ)第三七号債権差押事件記録によれば、抗告人は、昭和五三年九月一日、新潟地方裁判所三条支部に対し、抗告人の相手方に対する同庁昭和四二年(ワ)第一三号、第一五号、同年(手ワ)第七号、同年(ワ)第五三号約束手形金、貸金請求事件の執行力ある判決正本(以下本件債務名義という。)に基づき、相手方が第三債務者国(代表者金沢地方裁判所執行官高村真一)に対して有する金沢地方裁判所昭和五三年(執イ)第三五三号動産差押事件の売得金引渡請求権(以下本件債権という。)について、債権差押命令を申請し、新潟地方裁判所三条支部は、同日債権差押命令(同庁昭和五三年(ル)第三一号)を発し(以下本件差押命令という。)、右命令は同年同月四日第三債務者国に対し、同年同月一四日債務者たる相手方に送達されたこと、抗告人は同月七日新潟地方裁判所三条支部に対し、本件債務名義に基づいて本件債権についての債権転付命令を申請し、同裁判所は同月八日債権転付命令(同庁昭和五三年(ヲ)第三七号、以下本件転付命令という)を発し、右命令正本は同月九日第三債務者国(右代表者金沢地方裁判所執行官高村真一)に、債務者たる相手方には一たん送達不能となつた後同年一〇月四日交付送達の方法により送達されたこと、相手方は本件差押命令に対し同年九月一八日新潟地方裁判所三条支部に対し執行方法の異議を申し立てたこと(同庁昭和五三年(ヲ)第四一号)、同裁判所は同年同月二〇日職権により本件債務名義、本件差押命令、本件転付命令に基づき本件債権に対してなす強制執行についての停止決定をなし、右決定は同日相手方に同月二二日抗告人にそれぞれ送達されたこと、しかし相手方は右決定正本を執行裁判所に提出してはいないことが認められる。

右事実に基づき、抗告人の主張について検討することとする。

二抗告人は、本件差押命令および転付命令は第三債務者たる国に対する送達によつて終了しているから、その後なされた本件執行方法の異議の申立は不適法である旨主張する。

しかし、当裁判所としては、転付命令は第三債務者に対して送達されただけでは執行が終了するものではなく、右命令が債務者および第三債務者の両者に対して適法に送達された時にはじめて執行が終了するものと解する。その理由は、次のとおりである(なお、大審決定昭和三年一〇月二日民集七巻七七三頁、大審判明治四四年二月一六日刑録一七輯七九頁各参照)、

1 債権差押命令については、民訴法五九八条三項に「第三債務者ニ対スル送達ヲ以テ之ヲ為シタルモノト看做ス」旨規定があるが、転付命令についてはかかる規定を欠いている。

2 債権差押命令については、債権者のため一刻も早くその効力を生ぜしめ、とくに債務者をして差押のされることを予知される暇のないようにする必要があり、かつその要請は、第三債務者に対する支払禁止によつて実現を期することができるところから民訴法五九八条三項の規定が設けられたのであるが、転付命令については右のような要請はない。

3 債権差押命令は、現行法上それ自体終局的処分ではなく、のちに取立命令、転付命令などが発せられることを予定している先駆的、中間的な裁判であり、したがつて、一時的な処分制限を債務者に対し課するにとどまるから、債務者に対する裁判の告知(送達)を要しないで効力を発生せしめることは右1、2に記載されたところに照らして必ずしも不当ではないが、転付命令は、右と異なり、債務者から当該目的債権についての権限を終局的に剥奪するものであつて、債務者に対して極めて大きな不利益を与えるものであるから、特別の規定のない現行法のもとではその効力は債務者に対しても告知されることによつて生ずると解するのが相当である。そうでないと債務者は自己の財産(債権)を全く知らないうちに終局的に失う効果を生ずることになるわけであるから、このようなことは、明文の規定のない以上妥当でないと考えられるからである。

したがつて、この点の論旨は採用しがたい。

三ところで、前記認定したところによれば、本件転付命令は昭和五三年一〇月四日債務者にも送達されているから、結局、本件転付命令は同日その効力を生じ、これにより本件差押命令および転付命令による強制執行は終了したものと解さざるを得ない。

もつとも、本件異議の申立は、右終了以前に提起されていること前記認定のとおりであるが、かかる異議の申立の存在は、当然には本件転付命令による執行終了を妨げるものではない。更に同年九月二〇日前記のように強制執行停止決定がなされてこれが相手方および抗告人に送達されているけれども、かかる強制執行停止決定がなされたという事をもつて、当然には強制執行の進行が妨げられるものではない。この強制執行停止決定正本が執行裁判所に提出されていないこと(民訴法五五〇条二号参照)が前記のとおりである以上、債務者に対する本件転付命令の送達は有効になされたものといわざるを得ない。また、右強制執行停止決定がなされた時にはすでに本件転付命令が発せられていたのであり、しかも相手方としても、右強制執行停止決定の文言によりすでに本件債権について転付命令が発せられていたことを容易に知り得たことが窺われるのであり、したがつて相手方としては自己に対する本件転付命令正本の送達を適法に阻止すべき機会は十分与えられていたのであり、このような手続をとらなかつた以上、本件転付命令の送達さらにはこれに伴う執行の終了をもつて、信義則などに反するものということはいえない。

四そうだとすると、本件差押命令および転付命令による強制執行は適法に終了したものであつて、結局、本件執行方法の異議の申立は右終了によりその利益を失つたものというべきであるからこれを却下すべきものである。

したがつて、本件抗告は、その余の主張について判断を進めるまでもなく、理由があるから、原決定を取り消して本件異議申立を却下することとし、本件手続費用の負担については民事訴訟法九五条、九六条を適用し、主文のとおり決定する。

(森綱郎 新田圭一 奈良次郎)

別紙即時抗告申立書〈省略〉

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